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概要
認知革命(Cognitive Revolution)とは、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史』で用いた概念で、約7万年前のホモ・サピエンスに起きたとされる認知能力の質的変化を指す。
考古学的には、この時期以降に象徴的行動——装飾品、儀礼、長距離交易、構造化された住居、洞窟壁画——が急増することが知られる。ハラリはその背後に、言語と想像力の質的飛躍を想定した。
経過や中身
認知革命の中核は、存在しないものについて語る能力である。目の前にないライオンを警告できるだけでなく、「部族の守り神」「死後の世界」「明日の計画」といった、現実に存在しない対象を共有できるようになった。
この能力により、サピエンスは三つの新しい可能性を手にした。
第一に、未来の計画。狩猟の段取りや移動の計画を、実行の前に言語で共有できるようになった。第二に、大規模協働。共通の神話・慣習・法を信じる集団は、血縁を超えて数百人・数千人規模で協力できる。第三に、累積的文化進化の加速。情報が口頭で精密に伝わり、世代を超えて洗練されていく。
国家、宗教、企業、貨幣——これらはすべて「共有された虚構(shared fiction)」だとハラリは論じた。
背景・意義
認知革命と出アフリカ(約6〜7万年前)が時期的に重なるのは偶然ではない。長距離移動を支える計画性、新環境への柔軟な適応、見知らぬ他者との協働は、どれも虚構を共有する能力に依存していた。
ネアンデルタール人との明暗を分けた要因も、この力にあった可能性が高い。個体の身体能力や脳容量ではなく、物語を共有し束になれる力がサピエンスの決定的な武器だった。
現代への示唆
組織は物語でできている
企業のミッション、ブランド、理念、株主価値。どれも物理的には存在しないが、共有された虚構として人を動かす。戦略とは、どの物語を誰と信じ続けるかの設計である。
未来を語る力がリーダーシップ
リーダーの本質は、存在しない未来を具体的に語り、信じさせることだ。ビジョンとは認知革命の直系の産物であり、これを欠いた組織は血縁集団以上にはなれない。
虚構は道具であり武器でもある
共有された虚構は強力だが、誤った物語を信じる集団も強固に結束する。組織が信じている物語を定期的に検査し、事実との接地を確かめる仕組みがいる。
関連する概念
- 共有された虚構(shared fiction)
- 出アフリカ
- 象徴的行動
- ミーム(ドーキンス)
参考
- ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』柴田裕之訳、河出書房新社、2016年
- 長谷川眞理子『ヒトはなぜヒトになったか』岩波書店、2022年
- マイケル・トマセロ『ヒトはなぜ協力するのか』橋彌和秀訳、勁草書房、2013年