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概要
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は、約40万年前から約4万年前までヨーロッパ・西アジアに生息した、サピエンスに最も近縁なヒト属である。ドイツ・ネアンデル渓谷で最初の化石が発見されたことに由来する。
成人男性で身長約165cm、筋骨たくましい体格を持ち、平均脳容量はサピエンスをわずかに上回る約1500ccに達した。石器を作り、火を使い、死者を埋葬し、装飾品を持った。にもかかわらず、約4万年前を境に絶滅した。
経過や中身
ネアンデルタール人はムスティエ文化と呼ばれる石器技術を持ち、大型獣を狩る槍を使った。近年の研究では、顔料による身体装飾、洞窟内の構造物、鳥の爪による装身具などが報告され、象徴的思考を持っていた可能性が高いとされる。
古代DNA研究により、約5〜6万年前にサピエンスと交雑していたことが明らかになった。現代の非アフリカ人のゲノムには、約1〜4%のネアンデルタール由来の配列が残っている。
しかし、ヨーロッパに到来したサピエンスと数千年間共存した後、ネアンデルタール人は姿を消した。最後の化石は約4万年前、イベリア半島南部付近である。
背景・意義
絶滅の原因は諸説ある。気候変動への適応差、人口規模の差(サピエンスの方が集団が大きく、ネットワークが広かった)、投射武器(槍投げ器など)の有無、言語能力・社会的学習能力の微差、交雑による吸収。
近年有力なのは、個体能力ではなく集団規模と知の流通ネットワークの差という見方だ。サピエンスは小集団どうしが広範にモノと情報を交換し、累積的に文化を蓄積した。ネアンデルタールの集団はより閉じていた可能性が指摘される。
つまり、「個体として優秀か」より「ネットワークに組み込まれているか」が生存を分けた。
現代への示唆
優秀でも負ける
脳が大きく、寒冷地に強く、道具を持ち、文化を持った存在が敗れた。個体最適の優秀性は、競争の結果を保証しない。
ネットワークが累積進化を生む
小集団同士の交流がサピエンスに情報を流通させ、技術を蓄積させた。閉じた優秀集団より、開かれた並集団のほうが長期では強い。
置き換わりは静かに起きる
数千年かけて徐々に起きた交代は、当時の両者からは見えにくかっただろう。ゆっくりとした環境変化による競合劣位は、気づいた時には覆せない。組織の競争優位の侵食も同じ時間感覚で進む。
関連する概念
- ムスティエ文化
- 古代DNA研究
- 累積的文化進化
- ネットワーク効果
参考
- 篠田謙一『人類の起源』中公新書、2022年
- スヴァンテ・ペーボ『ネアンデルタール人は私たちと交配した』野中香方子訳、文藝春秋、2015年
- 更科功『絶滅の人類史』NHK出版新書、2018年