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概要
古典的実験では、回転盤で選ばれた無関係な数値を先に書かせるだけで、その後の「国連加盟国のうちアフリカ諸国の割合」の推定が影響を受けることが示された。アンカーは無関係でも効く。
交渉では、先に提示された価格が合意点の参照点として働く。量刑判断では検察の求刑が判決の分布を引き寄せる。医療では最初に提示されたリスク数値が後続の推定の土台になる。
アンカリング効果は頑健だが、効果サイズは文脈と専門性、アンカーの極端さに依存する。単純な注意喚起では容易に消えない。
メカニズム
有力な仮説は選択的アクセス仮説である。アンカーが提示されると、それと整合する情報が優先的に想起され、整合しない情報は相対的にアクセスしにくくなる。結果として推定はアンカー寄りに偏る。
もう一つは不十分な調整仮説で、人はアンカーから出発して調整するが、調整量が不足する傾向を持つ。両仮説は排他的ではなく、状況により併存する。
専門家も免れない。不動産業者が同じ物件を異なるリスト価格で見せられると、査定額が引きずられることが報告されている。
意義
アンカリング効果は、判断が呈示された情報の順序と構造に依存することを示す。公平な議論や入札、契約交渉の前提を根底から問い直す知見である。
この効果は価格戦略、MSRP、メニューデザイン、寄付キャンペーンなど、実務の広い領域で意識的・無意識的に用いられている。
現代への示唆
最初の数字は最大の数字
交渉では、合理的範囲内での最初の提示がその後の合意点を形作る。沈黙して待つことが有利とは限らない。同時に、先に提示された数字の影響を認識したうえで、自分のアンカーを独立に持つ訓練が要る。
予算会議のアンカーを再設計する
前年実績からの増減率で議論を始めると、前年値が強力なアンカーとして働き、ゼロベースの再評価は事実上不可能になる。ゼロベース予算やクリーンシート・アプローチは、アンカーの切り替えとして意味を持つ。
自分のアンカーを知る
意思決定の前に、自分がどの数字や物語に引きずられているかを書き出す習慣は、アンカー効果の外部化に資する。内省の儀式ではなく、判断品質の管理手続きとして位置づけられる。
関連する概念
- プロスペクト理論
- 確証バイアス
- 二重過程理論(システム1/システム2)
- フレーミング効果
- ヒューリスティクス
参考
- Tversky, A. & Kahneman, D. “Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases”, Science, 185, 1974
- Furnham, A. & Boo, H. C. “A Literature Review of the Anchoring Effect”, Journal of Socio-Economics, 40(1), 2011