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概要
『テンペスト』(The Tempest)は、シェイクスピアが一六一一年ごろ書いた戯曲で、単独執筆による最後の作品とされる。悲劇でも喜劇でもない、晩年のロマンス劇(romance)に分類される。
主人公が自らの魔術を折って海に沈める最終場面は、しばしばシェイクスピア自身の筆を折る宣言として読まれ、演劇と人生の関係を問う自省の作品として位置づけられる。
あらすじ
十二年前、ミラノ大公プロスペロは学問に没頭するあまり政務を弟アントーニオに委ね、その弟とナポリ王アロンゾーの陰謀により娘ミランダとともに海に流された。漂着した孤島で、プロスペロは精霊エアリエルを従えて魔術を修め、島の原住民キャリバンを使役する。
ナポリからイタリアへ戻る船を、魔術で嵐に遭わせて島に座礁させる。乗客のアロンゾー王は息子ファーディナンドを失ったと嘆く。ファーディナンドはミランダと出会って恋に落ちる。
プロスペロは弟や王たちの罪を明らかにした後、復讐を断念し赦しを選ぶ。娘と王子の結婚を祝福し、魔術の書を海に沈めて、ミラノへ戻ることを決意する。エピローグでは観客に向けて自らの解放を乞うて幕となる。
意義
本作は、権力・魔術・芸術の関係を主題化する。プロスペロの魔術は、王位を奪還する手段でありながら、最後には放棄される。人為的な力が及ぶ範囲と、その限界の認識が物語の芯にある。
キャリバンの描写は、近代の植民地主義批評の出発点としても読まれる。未開の他者をどう表象するかという問題は、本作が提起する長い問いである。
現代への示唆
復讐より赦しの合理性
プロスペロは全能の立場から、あえて赦しを選ぶ。復讐は短期的にカタルシスを与えるが、長期的な関係と自分自身を蝕む。交渉・訴訟・退任劇のすべてにおいて、制裁の行使と慈悲のバランスが問われる。
知に埋没した者の権力喪失
学問に耽溺したプロスペロは、政務を弟に委ねて追放された。専門知への没入は、組織運営の放棄と紙一重である。経営者が自らの得意領域にのみ籠ることの危険を、本作は冷徹に描く。
魔術を捨てる時機
晩年のプロスペロは、自らの力の源泉である魔術の書を海に沈める。キャリアの絶頂で退くこと、築いた資源を手放すことが、次世代への本当の贈与となる。引き際の美学は、経営承継の実践問題である。
関連する概念
- プロスペロ
- エアリエル
- キャリバン
- ロマンス劇
- 植民地主義批評
参考
- 原典: シェイクスピア『テンペスト』小田島雄志訳、白水Uブックス
- 研究: 石井美樹子『シェイクスピアと異文化』研究社