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概要
コナトゥス(conatus)は、バルーフ・デ・スピノザ(1632-1677)が主著『エチカ』(1677)第 3 部で提示した倫理学の中心概念。
ラテン語で「努力・衝動・傾向」を意味し、スピノザの定義では 「おのおのの物が自己の存在に固執しようと努めるその力」 を指す。人間に限らず、動物・植物・物質・社会組織に至るまで、存在するものすべて がこの力をもつとされる。
中身——感情の物理学
スピノザの革新は、感情を コナトゥスの増減の経験 として定式化した点にある:
- 喜び(laetitia) = 自己のコナトゥスが 増大 する経験
- 悲しみ(tristitia) = 自己のコナトゥスが 減少 する経験
- 欲望(cupiditas) = コナトゥスが意識された状態
つまり感情は気まぐれではなく、力の増減に伴う必然的な徴候 である。スピノザはこれを「幾何学的秩序に従って」論証した。
論点
- 善悪の反転 — 善とは「我々のコナトゥスを増大させるもの」、悪とは「減少させるもの」。客観的な善悪ではなく、存在論的な力の関数として倫理が再定義される
- 自由意志の否定 — すべては神=自然の必然に従う。自由とは「必然を認識すること」である
- デカルトとの対決 — 心身二元論を退け、心身は同一のものの異なる表現 とする一元論
現代への示唆
1. 組織の存続本能と感情
企業や組織もコナトゥスを持つ——自己を維持・拡張しようとする盲目的な力 がそこにある。リストラ時の組織防衛反応、M&A 時の文化衝突は、この力の衝突として読み解ける。
2. 感情を力学として扱う
経営者は「社員のモチベーション」を精神論で語りがちだ。しかしスピノザ的には、モチベーションとはコナトゥスの増減 である。何が社員の力を増大させ、何が減少させるかを冷静に分析する——感情の物理学的アプローチである。
3. 「活動的感情」への転換
スピノザは受動的感情(外界に翻弄される状態)から 能動的感情(自己の本性から生じる喜び)への移行を説く。リアクティブからプロアクティブへ という現代マネジメント言説の哲学的原型がここにある。
関連する概念
[『エチカ』]( / articles / spinoza-ethica) / 神即自然 / 能動感情と受動感情 / 幾何学的秩序 / ドゥルーズのスピノザ論 / 情動理論
参考
- 原典: スピノザ『エチカ』(畠中尚志 訳、岩波文庫、1951)
- 原典: スピノザ『エチカ』(工藤喜作・斎藤博 訳、中公クラシックス、2007)
- 研究: ジル・ドゥルーズ『スピノザ——実践の哲学』(鈴木雅大 訳、平凡社ライブラリー、2002)
- 研究: 國分功一郎『スピノザ——読む人の肖像』岩波新書、2022