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概要
クルアーン(Qur’an、القرآن、アラビア語「読誦されるもの」)は、イスラム教の最重要経典。日本語では「コーラン」とも表記されてきた。
ムハンマドが 610 年から 632 年までの 23 年間にわたって、天使ガブリエルを通じて受けたアッラーの啓示をまとめたもの。ムハンマドの死後、第 3 代カリフウスマーンの時代(650 年頃)に現在の形に編纂された。
構成
- 全 114 章(スーラ)
- 約 6236 節(アーヤ)
- メッカ期の章(短く詩的、啓示の初期)とメディナ期の章(長く律法的、啓示の後期)が混在
- 章の配列は時系列ではなく、長さ順(長い章から始まり、短い章で終わる。ただし第 1 章は例外)
アラビア語原典の絶対性
他宗教の経典と決定的に異なる点:アラビア語のクルアーンのみが「神の言葉」であり、翻訳はすべて注釈(タフシール)にすぎないとされる。
- 礼拝はアラビア語で行う
- 非アラビア語圏のムスリムも子どもの頃からアラビア語で暗記
- ハフィズ(クルアーン全暗記者)は尊敬される
主な内容
神学
- 唯一神アッラーの性質(慈悲深く、全知全能)
- アダム・ノア・アブラハム・モーセ・イエス・ムハンマドを預言者として認める
- 最後の審判と復活
律法
- 礼拝・断食・巡礼・喜捨
- 婚姻・相続・契約
- 飲酒・豚肉の禁止
物語
- 聖書と重なる預言者物語(アダム、ノア、アブラハム、ヨセフ、モーセ、イエス)
- イエスとマリアの物語(19 章)
- 神の慈悲と審判
文学的特徴
クルアーンはアラビア語文学の最高峰とされる:
- サジュア(押韻散文)の美しさ
- 詩と散文の中間的文体
- 朗誦(タジュウィード)のための音声的配慮
「クルアーンに匹敵する一章を作ってみよ」(17:88)という挑戦は、ムスリムにとっての「文体的奇跡」(イジャーズ)の根拠となっている。
現代への示唆
クルアーンは、経典と共同体の関係の独特なモデルを提供する。
1. 原典の不可変性
翻訳を「注釈」に留める厳格さは、原典の聖性を 1400 年以上維持する装置となった。企業の 「創業者の一次文書」 をどう扱うかの参考になる。
2. 暗記と朗誦の文化
子どもの頃から全暗記する文化は、共同体の文化的結束を物理的に保証する。ロゴ・スローガン・ミッションステートメントなど、繰り返し唱えて身体化する仕組みの究極形態。
3. 物語・律法・詩の統合
クルアーンは、物語・法規・詩・瞑想を一つの書物に統合する。単一ジャンルに特化した現代のビジネス文書と対照的である。
関連する概念
[ムハンマド]( / articles / muhammad) / イスラム教 / スンナ / ハディース / アラビア語
参考
- 原典: 『クルアーン』(井筒俊彦 訳、岩波文庫、1957-58 改訂)
- 研究: 大川玲子『聖典クルアーン』岩波書店、2004