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概要
過去約5億4000万年の顕生代を通じて、地球は少なくとも5回の大量絶滅(ビッグ・ファイブ)を経験した。いずれも地球上の生物の大多数が短期間に絶滅した事象で、進化の流れを劇的に書き換えた。
とくに有名なのは白亜紀末絶滅(K-Pg境界、約6600万年前)で、直径約10kmの小惑星がメキシコ・ユカタン半島(チクシュルーブ・クレーター)に衝突し、非鳥類恐竜を含む生物種の約75%が絶滅した。この空いた生態ニッチに哺乳類が進出し、やがて霊長類・人類へと繋がる進化経路が開かれた。
メカニズムや経過
オルドビス紀末(約4億4400万年前):氷河期による海水準低下と寒冷化。海洋生物が大打撃。
デボン紀後期(約3億7200万年前):複数回の絶滅パルス。原因は海洋無酸素事変の可能性。
ペルム紀末(約2億5200万年前):史上最大。シベリアでの大規模火山活動(シベリア洪水玄武岩)によるCO2急増・温暖化・海洋酸性化・無酸素化。海洋生物種の96%が絶滅。
三畳紀末(約2億100万年前):中央大西洋マグマ区の火山活動。恐竜が優占する道を開いた。
白亜紀末(約6600万年前):ユカタン半島への小惑星衝突。衝突の粉塵と煤による日射遮断で光合成が停止、食物網の基盤が崩壊した。1980年、アルヴァレズ親子が境界層のイリジウム異常から衝突説を提唱し、クレーター発見で確定した。
科学的知見
K-Pg境界のイリジウム濃集層は世界中で確認されており、衝突説は物証として揺るぎない。ペルム紀末絶滅のシベリア火山説も、放射年代とCO2同位体プロキシで裏付けられている。
現在、人類活動による第六の大量絶滅が進行中との見方が強い。背景絶滅率の100〜1000倍のスピードで種が失われているとの推計があり、生物多様性条約・IPBESが警鐘を鳴らしている。
現代への示唆
支配者が消え新勢力が台頭する条件
恐竜は約1億6500万年間、陸上を支配していた。哺乳類は小型夜行性の「隙間」に追いやられていた。隕石衝突という外因ショックが支配者を一掃して初めて、哺乳類が大型化・多様化する空間が開いた。業界の絶対王者は、内部改革では倒れず、外因イベントによってのみ退場する。後発企業は、王者と正面から戦うより「絶滅イベントの到来」を待ち受けるポジショニングが有効な局面がある。
小型で汎用性が高い種が生き残る
K-Pg絶滅を生き残ったのは、体が小さく食性が柔軟で代謝が低い動物たちだった。危機においては規模と専門化は不利に働く。軽量・汎用・低コスト構造こそがテールリスク局面の生存条件だ。
リスクは釣鐘型ではなくべき乗分布する
大量絶滅の頻度・規模分布は正規分布ではなくべき乗分布に近い。平均から推定した「想定内」の外側に、全てを塗り替える事象が必ず存在する。経営のリスク管理は、分布の裾(ファットテール)を前提に設計せねばならない。
関連する概念
- K-Pg境界
- チクシュルーブ・クレーター
- シベリア洪水玄武岩
- 第六の大量絶滅(人新世)
参考
- 平野弘道『絶滅古生物学』(岩波書店)
- 磯崎行雄『ペルム紀末大量絶滅』(関連論文・解説)
- ウォルター・アルヴァレズ『絶滅のクレーター——T・レックス最後の日』(新評論)
- エリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』(NHK出版)
- 丸山茂徳・磯崎行雄『生命と地球の歴史』(岩波新書)