文学 2026.04.15

万葉集

八世紀後半に成立した日本最古の歌集。天皇から庶民・防人まで多様な身分の和歌約四千五百首を収める。

Contents

概要

『万葉集』は、八世紀後半(奈良時代)に成立したとされる、現存する日本最古の和歌集である。全二十巻、約四千五百首を収める。

編纂過程は複雑で、複数の歌集が段階的に合わさったと考えられているが、最終的な編纂には大伴家持が関わった蓋然性が高い。万葉仮名と呼ばれる、漢字を音や訓で和語を表す表記法で書かれている。

背景

奈良朝の日本は、律令国家の確立期にあり、中国文化を大規模に受容しつつ、同時に独自の言語・文化を文字に固定しようとした。漢詩集『懐風藻』と並行して、和歌の集成としての『万葉集』が編まれた意味は大きい。

所収歌には、舒明天皇から淳仁天皇までの歴代の天皇、額田王、柿本人麻呂、山部赤人、山上憶良、大伴旅人、大伴家持といった著名歌人が含まれる。加えて、東国方言で歌われた「東歌」、九州沿岸警備に徴発された兵士の「防人歌」、遊行する女の歌まで、身分を超えた収録が行われた。

意義

『万葉集』の独自性は、朝廷歌人の洗練だけでなく、名もなき人々の歌を同一の歌集に収めた点にある。後代の『古今和歌集』以降の勅撰集が貴族的美意識に純化していくのに対し、『万葉集』には多様な階層の言葉が並存する。

「ますらをぶり」と評された力強く素朴な歌風は、江戸期の国学者賀茂真淵が称揚し、近代の正岡子規・斎藤茂吉らによる短歌革新の際にも理想とされた。新元号「令和」の典拠としても二〇一九年に注目を集めた。

現代への示唆

多様な階層の声を同じ器に

天皇から防人までの歌を同一集に収めた『万葉集』の構成は、多様な声を単一の器に並置する構想の先駆である。組織の意見集約においても、階層・職種・地域を越えた声を同列に扱う仕組みが、全体像の把握に不可欠である。

言葉を文字に固定する戦略

万葉仮名という工夫は、外来の漢字を道具として自らの言語を保存する営為だった。外部技術を借用しながら、自社固有の文化と知識を文字化して残す戦略は、いまも組織にとって重要である。

公務の現場から生まれる歌

防人の歌は、九州沿岸警備という過酷な公務のなかで生まれた。現場の過酷な業務から生まれる言葉を、公式文書の外で拾い上げる仕組みが、組織の本当の声を拾う。数値では表れない職場の現実が、そこにある。

関連する概念

  • 柿本人麻呂
  • 山上憶良
  • 大伴家持
  • 万葉仮名
  • 防人歌

参考

  • 原典: 『万葉集』小島憲之ほか校注、新編日本古典文学全集
  • 研究: 伊藤博『萬葉集釋注』集英社

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