哲学 2026.04.14

方法への挑戦

ファイヤアーベントが1975年に著した科学哲学書。『何でもあり』を掲げ、単一の科学方法論を否定した。

Contents

概要

方法への挑戦(Against Method、1975)は、オーストリア出身の科学哲学者 パウル・ファイヤアーベント(Paul Feyerabend、1924-1994)の主著。副題は「認識論的アナーキズム理論の概要」。

ウィーン学団とポパー学派の影響下で出発したが、後にそれらを徹底批判。科学哲学の「反逆児」として、単一の科学方法論が存在しうるという前提そのものを解体した。

中身

方法論的アナーキズム

ファイヤアーベントは科学史を詳細に分析し、いかなる方法論的規則も、ある歴史的転換点で科学者によって破られてきたと示す:

  • ガリレオは望遠鏡の信頼性を経験的に確証しないまま、コペルニクス説の論拠として使った
  • アインシュタインは時間の絶対性という当時の「常識」を捨てた
  • 古代ピタゴラス派は観察に反して地球の運動を主張した

つまり科学の前進は、既存のルールを破る自由によって生まれた。単一方法論(帰納、反証、ベイズなど)を科学の本質と見なす議論はすべて歴史に反する。

「何でもあり」

有名なスローガンが登場する:

「Anything goes.」(何でもあり)

ただし、これは「何をやってもよい」という放縦の勧めではなく、事前にルールで科学を縛るべきでないという方法論的多元主義の主張である。

科学と非科学の対称性

ファイヤアーベントはさらに挑発的に、科学は神話・宗教・呪術と同等の一つの世界観にすぎないと論じる。国家が特定の宗教を強制すべきでないように、国家は科学教育の独占を止めるべきだと主張した(『自由人のための知』1978)。

論点・批判

  • 学術的・政治的に大きな反発を招いた。「科学を相対化しすぎる」「疑似科学に口実を与える」との批判
  • ポパー、ラカトシュとの論争は有名(ラカトシュは友人だった)
  • しかし 科学の歴史的・社会的偶然性を明示した点で、SSK(科学社会学)・STS(科学技術社会論)への扉を開いた
  • 科学にも多様性が必要という洞察は、現代の学際研究・イノベーション論に継承されている

現代への示唆

1. 方法論多元主義——経営手法のハイブリッド

「唯一正しい経営手法」は存在しない。OKR、アジャイル、リーン、デザイン思考——どれも万能ではなく、状況に応じて混ぜ、時に破ることが現実的な経営である。ファイヤアーベントはメソドロジー至上主義への警鐘となる。

2. 前例破りの正当化

ガリレオの事例が示すように、重要なブレークスルーは既存ルールの違反から生じる。コンプライアンスは守りつつ、「業界の常識」を破る自由を組織に残すこと——これが持続的イノベーションの条件である。

3. 専門家の独占を疑う

「科学の権威による独占」への批判は、現代の専門家コンサルによる経営論の独占にも当てはまる。外部の視点、異質な知(現場、顧客、他業界)を取り入れる知の民主化が、単一方法論の硬直を防ぐ。

関連する概念

ファイヤアーベント / ラカトシュ / クーン / [反証可能性]( / articles / falsifiability) / パラダイム / 方法論多元主義 / STS

参考

  • 原典: ファイヤアーベント『方法への挑戦——科学的創造と知のアナーキズム』(村上陽一郎・渡辺博 訳、新曜社、1981)
  • 原典: ファイヤアーベント『自由人のための知』(村上陽一郎・渡辺博 訳、新曜社、1982)
  • 研究: 村上陽一郎『科学者とは何か』新潮選書、1994

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