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概要
ダダイズム(Dadaism、ダダ Dada)は、1916年2月、第一次世界大戦下の中立国スイス・チューリッヒ、フーゴ・バルが開店したキャバレー・ヴォルテールで始まった反芸術運動。運動名「ダダ」は辞書を無作為に開いて選ばれたと伝わる——無意味そのものがマニフェストだった。
背景には戦争という文明の破綻に対する徹底した拒絶があった。理性、進歩、美、秩序——啓蒙以降の価値のすべてに、笑いと挑発で反旗を翻した。
様式・技法
主要な手法は以下である。
レディメイド——既製品を美術館に持ち込み、作者のサインひとつで芸術作品と宣言する。デュシャン『泉』(1917、男性用小便器)が象徴的事例。
フォトモンタージュ——写真を切り貼りして政治的・社会的アイロニーを作る。ラウル・ハウスマン、ジョン・ハートフィールド(反ナチス作品)が代表的。
音声詩・偶然詩——意味を持たない音の連鎖、新聞の単語を切って並び替えた詩(ツァラの「ダダ詩の作り方」)。
メルツ——クルト・シュヴィッタースが廃品(切符、新聞、木片)から作った集積作品。
チューリッヒから、ベルリン、パリ、ニューヨーク、ケルン、ハノーファーへ広がった。
意義
ダダは、「芸術作品を作品たらしめるのは、作家の宣言とコンテクストである」という問いを決定的に突きつけた。美的特性ではなく制度・言説こそが「美術」を規定する——この洞察が、以降100年の現代美術の土台となった。
1924年頃、活動自体は解消するが、メンバーの多くがシュルレアリスムへ合流する。戦後はネオ・ダダ(ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ)、フルクサス、コンセプチュアル・アートへ直接継承された。
現代への示唆
文脈が価値を作る
レディメイドは、同じモノでも置く文脈次第で意味が変わることを露わにした。価格、流通経路、ブランドは同じ商品を全く違う存在に変える。
挑発の戦略的価値
ダダは嘲笑と挑発を正面から武器にした。広告・ブランディング・マーケティングにおける計算された挑発の原型。ただし品位との綱渡りは常にある。
危機に対する表現の応答
戦争への応答として生まれた運動だった。危機・不条理・混乱のなかで何を表現するか——表現者の社会的責任を問い直す契機として今も参照される。
反芸術という芸術
否定することで肯定するパラドックス。既存カテゴリーを拒絶することで新カテゴリーを作る起業・ブランド戦略の構造と同型である。
関連する概念
- マルセル・デュシャン
- レディメイド
- キャバレー・ヴォルテール
- フォトモンタージュ
- シュルレアリスム
参考
- トリスタン・ツァラ『ダダ宣言』思潮社
- 塚原史『ダダ・シュルレアリスムの時代』ちくま学芸文庫、2003