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概要
アール・ヌーヴォー(Art Nouveau、「新しい芸術」)は、1890年代から1910年頃にかけて欧州で流行した装飾芸術・建築運動である。産業革命後の量産品の画一性への反発として、植物・昆虫・波・髪などに想を得た有機的曲線を装飾言語として採用した。
名称は、パリの画廊「メゾン・ド・ラール・ヌーヴォー」(1895、ジークフリート・ビング経営)に由来する。
様式・技法
地域ごとに異なる呼称と様式を持つ。
- フランス(パリ、ナンシー)——アール・ヌーヴォー。ギマールのパリ地下鉄駅入口、ガレ・ドームのガラス工芸、ミュシャのリトグラフ。
- ベルギー——ヴィクトル・オルタの邸宅(タッセル邸)、アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ。
- ウィーン——ユーゲントシュティール/分離派(ゼツェッション)。クリムト、オットー・ワーグナー、ヨーゼフ・ホフマン。
- ドイツ——ユーゲントシュティール。
- スペイン(バルセロナ)——モデルニスモ。アントニ・ガウディのサグラダ・ファミリア、カサ・バトリョ。
- イギリス——先行するアーツ・アンド・クラフツ運動(モリス)、グラスゴー派(マッキントッシュ)。
共通するのは、手仕事の復権と総合芸術(Gesamtkunstwerk)の理念——建築・家具・壁紙・食器・服を一つの美学で統合する。
背景・意義
背景には、日本美術(浮世絵・工芸)の流入、産業生産への批判、新興ブルジョワジーの住宅市場がある。特にジャポニスムの影響は決定的で、曲線の官能性、平面構成、植物モチーフの多くが浮世絵・琳派から学ばれた。
1910年代以降はアール・デコへ移行し、大戦後の合理主義的デザインに押されて急速に衰退した。1960年代以降、ポップ・サイケデリック文化のなかで再評価され、現在では世紀末文化のアイコンとして定着している。
現代への示唆
大量生産時代のカウンター
量産への反発として生まれた。工業時代の画一性への美的抵抗という構造は、現代のクラフト回帰・D2Cの職人性訴求にそのまま通じる。
トータルデザイン
建築・家具・食器・服飾・印刷物までを一貫した美学で統合する思想は、統合ブランド体験の原型である。タッチポイントすべてに共通文法を。
ローカル様式の並存
同じ時代精神が、パリ、ウィーン、バルセロナ、グラスゴーで異なる地域様式として結実した。グローバル・トレンドのローカル適応——今日のグローバル企業の地域別戦略と構造が似ている。
短命な流行と長命な名作
流行としては20年ほどで消えたが、ガウディ、クリムト、マッキントッシュの作品は今も生きている。流行と古典の分かれ目は、様式の深さにある。
関連する概念
- アルフォンス・ミュシャ
- ガウディ
- クリムト
- アーツ・アンド・クラフツ
- アール・デコ
参考
- 海野弘『世紀末ウィーン』新潮選書
- 『アール・ヌーヴォーとアール・デコ』Taschen