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概要
福音書(ふくいんしょ、Gospel)は、新約聖書の冒頭 4 書——マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ——の総称。ギリシャ語 エウアンゲリオン(euangelion、「良い知らせ」)の訳で、イエスの生涯と教えを伝える文書を意味する。
1 世紀後半(およそ 70〜100 年頃)に成立したとされる。
4 つの福音書
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マルコ福音書(最古、約 70 年頃)
- 最も短く、イエスを「苦難の僕」として描く
- 最初に書かれた福音書と考えられる
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マタイ福音書(約 80 年頃)
- ユダヤ人向け、「律法の完成者」としてのイエス像
- 山上の垂訓(5〜7 章)を含む
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ルカ福音書(約 80-90 年頃)
- 異邦人向け、「普遍的救い主」としてのイエス像
- 続編『使徒言行録』と対をなす
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ヨハネ福音書(最後、約 90-100 年頃)
- 共観福音書(上 3 書)と性格が異なる
- 神学的・象徴的なイエス像(「私は道であり、真理であり、命である」)
前 3 書は記述が類似するため 共観福音書(synoptic gospels)と呼ばれる。
文学としての特徴
- 対話・譬え話の多用 — 抽象論ではなく具体的な物語として教えを伝える
- 矛盾をそのまま残す編集 — 4 書間の食い違いを強引に統一しない
- 複数視点の併置 — 単一の正典ではなく、複数の証言として提示
現代への示唆
福音書の編集方針は、組織の物語戦略として参照できる。
- 単一声明よりも複数証言 — 公式メッセージを固めるより、複数の証言の併置のほうが説得力を持つ
- 矛盾の温存 — 都合のいい部分だけを残すと物語は嘘くさくなる。矛盾を抱えたままの誠実さ
- 抽象より具体 — 原則論より、具体的なエピソードが記憶と伝達を助ける
企業のストーリーテリング、ブランド論における 「ナラティブの多声性」 は、福音書が 2000 年前に体現した手法である。
関連する概念
[イエス・キリスト]( / articles / jesus-christ) / 新約聖書 / 共観福音書 / パウロ書簡
参考
- 原典: 『新約聖書』(新共同訳、日本聖書協会、1987)
- 研究: 田川建三『書物としての新約聖書』勁草書房、1997